料理対決




太陽の日差しが強い。
きっと俺の勝利は確実だ。
前、一度秀麗が寝込んだ時に静蘭と楸瑛と俺で菜を作った事がある。
その時の楸瑛の手際を見れば一目瞭然というものだ。

絳攸は料理対決が決まった日の事を思い出すと、苛立ちが募り手を握り締めると、ぐっと太陽に向けた。




「く…ふ、ふふ。」
楸瑛は絳攸が作った饅頭を見て笑いが耐えれないと顔を背け口元に手をあてると、くっくと笑いながら肩を震わせていた。
そんな楸瑛を見てふつふつと、否、直ぐに怒りがこみ上げてきた絳攸は握った拳を楸瑛へと繰り出した。
「お、っと」
絳攸の拳を難なく受け流した楸瑛はまた肩を震わせ、尚も笑い出す。
「…楸瑛」
低い絳攸の声に悪いと思いながらも止まらぬ笑いに段々と息が苦しくなる。
絳攸の手作り饅頭は以前”幽霊退治”をした時より良くなるどころか悪化しているようだった。
上手く包めていない生地から餡が飛び出しており更に、まだ蒸しきられてないのか生地は半生。
かと思いきや何故か焦げている部分も有り、はっきり言ってお世辞にも”美味しそう”とは言い難い饅頭に楸瑛は手を伸ばした
…のだが、饅頭を取ろうと伸ばした手を絳攸はパシっと音をたて勢いよく払いのけると鼻息を荒くして楸瑛を睨み付けるのだった。
「貴様にやると言った覚えはない!!」
楸瑛は溜め息とともに叩かれて手の甲を摩り、恨めしげに絳攸を見やる。
「でも、捨ててしまうんだろう?」
ならば私におくれと笑顔で手を差し伸べるが、絳攸は眉を寄せてその手を見るだけだった。
黎深に言われてまた作り始めた饅頭。
しかしこんなものを黎深の前に出すわけにもいかず、紅家で捨てれば黎深にばれてしまうためここまで持ってきたのだが、楸瑛に見つかるとは思いもしなかった。
楸瑛は反応の無い絳攸を見て口元で笑みを作ると、手早く饅頭を取りぱくりと一口、口に含んだ。
決して「美味しい」とは言いがたいその味に、絳攸曰くいつもの”胡散臭い笑顔”が少し崩れるが、瞬時に元の顔に戻して二口目を口にした。
愛する絳攸が他の男の為に作った代物なんて、この世に存在するだけでも鬱陶しいのだ。
己の腹に入れてしまえばこの饅頭に込めた絳攸の想いも少しは自分に方に傾いてくれるのではないか、などと考えてしまうのは何と浅ましい事か。


何が起こったか解からなかった絳攸はしばし呆然と楸瑛を見ていた。
だが楸瑛が三口目に饅頭頬張る前に我に帰ると、すぐさまその手から饅頭を取り返すべく手を伸ばす。
楸瑛は伸びて来た手を掴むと己の口を絳攸の耳元までもっていく。
「ねぇ絳攸。料理勝負しない?」 絳攸は耳元にかかる吐息にブルっと身体が震えた。
頬に赤みがさすのが自分でもわかる。
「一週間後、藍邸で。」

絳攸が言い返す隙も与えず言いたい事だけ言い終えるとその場から楸瑛は去って行った。
楸瑛が出て行くのを見届けると、囁かれた右の耳に触れると、とても熱くなっていた。
「……何なんだ。あの常春。」






イチャイチャ目指します!!